アフリカこぼれ話(バンジー)

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バンジージャンプの飛び込み台に立って、下を覗いたら奈落の谷底が広がっていた。ビクトリアの滝の轟音が頭を這い、目がくらんで、死ぬ、と思った。世の中にはできることとできないことがあり、これは、できないことでしょうよ、と。
下を見るたびに、頭がくらっとして失神しそうになった。

でもねえ、せっかくここまで来たわけだから。
でもねえ。これは本気でパニックになる高さやで。なんてったって、110mやで。
でもねえ、せっかく1.5万も払ったわけだから。
でもねえ。ここで昔、綱が切れたという怖い怖い話があってだな。
ガタイのいいおじさんが後ろから勇気づけてくる。「大丈夫、ほら、何百人の人が飛んだわけだから」

そこから5分、逡巡した。5分。そしてやめようと思った。


「いや、やっぱり、やめます」
「えー、やめるの?」
「うん、たとえ何百人が飛んでも、私はむり。たぶん死んじゃう」
「楽しいのに」
「私は楽しくない」
「そうか、俺らは、後ろから背中を押すことはできても、君の代わりに飛んであげることはできないからな」
「うん」
「最後の判断は、君次第だ」

そうして綱をほどいてもらっていたところに、私の前に飛んだイギリス人が奈落の谷底から上ってきた。
「私、やっぱりやめる」
「うむ。僕も最初はそう思ったけど、飛んでよかったよ」
「なんで?」
「怖かったのは最初の3秒だけだったから。3秒だけ、がまんして数えてごらん。4秒めからは、死ぬほどワクワクする世界が広がってるから。まじで」
「ほ、ほんとうに?」
「ほんとうだよ。僕を信じて」

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それ以降会うこともなかったイギリス人のアドバイスは、2年が経った今も、私の中にある。
新しいことはいつでもそう。
怖いのは、最初の3秒だけ。4秒めからは、死ぬほど、とは言わなくてもまあまあワクワクする世界が広がってる。

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