月別アーカイブ: 2015年12月

師走コール

12月のカレンダーを見ながら。
テーブルマウンテンのような台形状の山の上から、するんと落ちそうな気持ちになっていた。「師走!」「師走!」
コールが怖い。12月の、ひとを焦らす感じがえぐい。

でも次のカレンダーを開いてみると1月はふつうに、当たり前にやってきて、月曜日には仕事もあったりして、時間は延びていく。人生はつづいていく。悲しいことやつらいことがあっても、そう簡単に止まってはくれないし、時は淡々と流れる。時間の流れ方は相対的だけど、流れていく時間というのは絶対的だ。
台形状の山から落ちて、次の台形状の山のうえをまたするするとすべり始める。生きるというのはそういうするするすべりの積み重ね、なのかなあ。区切りなんてねえ。

去年今年貫くなにか得体のしれない大きなものへ。生かしてくれて、ありがとうございましたー。来年も生きてやる。

国の容姿

きのう、国を男に例えるのがなさんとの間で5分くらい流行ったんだけど、
シンガポールは条件はいいけど粗野な不細工とか(スイマセン)、
スペインは容姿がいいから許せるダメ男とか(スイマセン)、
なんにせよなさんは別れる直前の彼氏みたいな感じでシンガポールを語っていたが、
それでいうと日本はそこそこ金のあるいいおじさん(でも20年後には介護確定)って感じなんでしょうな。

安心感ってなんだろうね。

帰国は深夜

電車の中は、冬のコートのにおいがする。つんとつめたい表皮の内側に、ちょっとすえた汗のにおい。寒い日本はやさしい。

羽田空港を出て京急に乗って、品川でJRに乗り換えたら電車が止まっていた。仕方なく精算して外に出ようとしたら改札の係員口でみんなキレてる。振替切符出すのになんでこんなに待たされるんだ。だいたいアナウンスもないじゃないか。もういいわよ、切符置いてくわ。俺なんて10分も待ったぞ。やいのやいの。
駅員さんがルーティン的に帽子を脱いで、はあ、すいません、と言う。外に出るとタクシー乗り場に長蛇の列。 寒い日本は賑わい。

気持ちがごちゃっとしたのでちょっと歩こうと思いついた。どのみちこのタクシー待ちの列だ。大通りを少し歩いてから拾った方が早かろう。
ものの5分で空車のタクシーが何台も通り過ぎていった。みんな、歩けばいいのにねえ、と思いながら、足を止める気にならなかった。寒い日本、気持ちいい。酔っぱらってもいないのに歩きたい気分だ。
電車を待たされると5分でも苛立つのに、夜を歩いていると5分じゃ足りないのはなんでなんだろう。

右手にスーツケースを並走させながら、国道15号線をずんずんと歩く。
飛行機の中で読んだ本、書いた日記、観なかった映画。今回の出張の記憶、飲み会の記憶。明日からの予定。ポケットの中のバーツ・コイン。ラオスで食べた麺は米粉とタピオカ粉で、タイで食べたやつは普通の小麦粉のミーだった。冬はひたひたと近寄ってきているけれども、つんと鼻に抜けるわさびのような日本の冬が愛しくてたまらん。通り沿いにBMWが燦然と輝いてる。
散らかった頭の中を整理することもなく、ただずんずんと歩く。スーツケースの車輪はぐるぐるとアスファルトに鳴る。
マンホールの下から電車の駆けるゴーという音。浅草線だこれはきっと。

歩き始めて30分もしたら背中にしっとりと汗をかいていた。
15号線沿いには店の一軒も開いていなくて、まっすぐ帰ればいいのになんだか寄り道をしたい気分になってしまった。泉岳寺の寺はひっそりと息をしずめている。討ち入りまであと2週間だ。47人分の息がしずまっている。
泉岳寺の駅を越えてやっと魚民の看板が見えた。

通りを渡ろうとして信号を待っているとき、裏通りを覗いてみたら一軒だけお店が開いていた。魚民をやめて、その店で晩酌セットを頼んで、エビス生を飲みながらこれを書いている。私はウォーキング・ハイになっているから外国から帰ってきたばかりなんですよーなんて話しかけたりして、へーそうなんですかってお店のマスターが出してくれたのがスパイシーな生姜たっぷりの厚揚げだった。なんて美味しいんだろうと思った。シメにうどんを頼んだら油が張っていて、泣きたくなるくらい熱かった。

少し開いた窓のすき間から冬の風が入ってくる。左頬だけ、肌がちりっと凍ってつめたい。Hello Orange Sunshineが流れてる。店の前に見える自販機だけが明るい、深夜零時半。

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