土地は、枠であるのだと思う。それ以上でもそれ以下でもない。
良く晴れた穏やかな午後に、海の見えるレストランにシーフードを食べに来た。ひなびた土曜の海岸通りにちいさく、一軒だけそこにぽんと置いていかれたような西欧風の建物があって、ロブスターが美味いという話だった。
タイルばりの床からは、潮を含んでむっとする湿気にさらされた漆喰のにおいがして、私はこのにおいを嗅いだことがあると思ったが確信が持てなかった。
海に面したテラス席からは赤や黄色のペンキで塗られた小さな帆船がみえ、おもちゃをばらばらと浮かべたような黒い海面にも見覚えがあったが確信が持てなかった。それほどに私の中にある類似の体験はごちゃ混ぜになっていて、場所というのはただその類似体験をごちゃ混ぜに放り込む、混乱した器でしかなかった。