旅の反省文(その4)

旅人の資格4.無計画であること

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無計画な旅は、旅らしい。と思っていた。し、今でも思っている。
朝起きて、さあ、今日どこに行こうかな。けっこうここも気に入ったんだけど、そろそろ新しい場所にも行きたいしな、なんて考えて、地図を広げて(地図なんてないけど)目をつぶってピンを投げる。明日の計画なんて、要らない。みたいなやつ。
もちろんその無計画さゆえに多少の損をすることにはなるかもしれないけど、その損も織り込み済みで、
旅はたくさんの、色鮮やかな無駄。であっていいと思っているし、そうあるべきだとすら思う。
だって、お得な旅をしたいなら、パック旅行でいいじゃんね。半年前に早割チケット取ってバリに行くのでいいじゃんね。せっかく無職にまでなって放浪している意味、ないじゃんね。

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そういうわけで、その日も無計画に出発した。
友人が短期でやってきたので、レンタカーを借りてどこかに足を延ばそうという魂胆だった。

出発地はナミビアの首都ウィントフック。当初の目的地まで400kmを北上する予定だった。まあ半日がかりなーとカーナビを入れて、助手席の私はヒマに任せていろいろな場所を入力しては、距離を知って喜んでいた。
・ふむ、ビクトリアの滝までは1400km。夜行バスの距離だ。
・ヨハネスブルまでも1400km。あれ、意外と近い。
・ちなみに隣の国ボツワナの国境までは、300㎞。近いな。
・象さんで有名なオカバンゴ・デルタ(湿地帯)までは、800km。そんなもんか。

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ナミビアは人口密度が低い。1㎢あたり、2人(ちなみにバングラは1000人オーバー)。とにかく低い。
町を歩いていても見かける人影はまばらだし、ただ車で走っているだけだったらなおさらだ。
対向車線にすれ違う車は、1時間走っても数台といったものだった。自然とスピードも上がる。100㎞、150㎞、180㎞。
ん?これは、800㎞先にある湿地帯までも、5,6時間でたどり着くじゃないか。

東を目指しましょう。そう言って私たちは進路を東にとったのだった。

気持ちの良い午後だった。青い空に雲がしらじらと、綿をぎっしりと詰め込んで硬そうで、フロントガラス越しに吹き抜ける風のそよぎすら聞こえた。ときどきご当地道路標識が見えた。イノシシのマークで、「動物注意」。牛のマークで「動物注意」。描かれている動物のフォルムがかわいくて、つい写真を撮りすぎてしまう。

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国境さっさと越えて、ボツワナに入っても、すれ違う車はほとんどなかった。
大平原に沈む夕日は赤く乾いてあたたかい。何もない場所を独り占めして疾走している気持ちよさといったらない。ナミビアよりもさらに車の数が減ったように思えた。人口密度1㎢あたり3人強。こちらも世界の過疎国の上位だ(1位はモンゴルです)。

まっすぐな道をかっ飛ばしていると、後ろの大地に夕陽が入っていくのが見えた。雲の腹が金色に輝き終わる。
ふと首筋がひやり。小さな焦り。このまっさらな大地に忍び寄る夜は、真っ黒なんじゃないか。
目的地までは300㎞。夜が浅いうちに到着したい。

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ちょっと飛ばそう。そう言って、車は少しスピードを上げた。もとより対向車もない道だ。多少飛ばしても、早く着きたい。私たちはアクセルを200㎞まで踏んだ。道はぐんぐん食べられる。でもそれよりも足早に、夜はぐんぐん近づいてくる。20分と進まないうちに、空は漆黒の闇に塗りこめられてしまった。
ヘッドライトが道の際を照らす。ときおり目先にぼうっと浮かぶ中心線を頼りに、真っ暗闇を切り裂いて、私たちは前進した。早く行こう。どんどん行こう。

闇の中では風の音だけがからからと窓にさわる。不安はだんだん増してくる。

とつぜん、白くて大きくて硬そうな四角形の箱が、目の前にあらわれた。運転席の友人がうわっと叫んでハンドルを切る。対向車線に避ける。時速は200㎞。ひやり。
それは牛だった。大きな牛が、のっそりと国道を横切っているのだった。

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昼間にぱちぱち写真を撮っていた標識たちを思い出した。標識には確かに牛が描かれていて、そして私たちが避けた道沿いには牛が横断していた。しかも何頭も。
これは怖い。対向車線に車が来たら一貫の終わりだ。牛を轢くしかない。でもあの大きい牛を?

わ!!

と思う間もなく、次なる牛があらわれた。しかも2頭。あぶない、と再び対向車線によけると、ヘッドライトが白く光った。まさか対向車線に・・・
背筋が凍りついたそのとき、ズドーンと鈍い音がした。白い物体がフロントガラスを覆って、レンタカーがごうんと震えた。
もしかしたら、私死ぬのかもしれない。

しかし私たちはまだ走っていた。フロントガラスにぴしりとひびが入る音がした。ぱりぱりぱり、ちいさな埃になって、ガラスのくずが落ちてくる。心臓がばくばく言ってい
ぶつかったのは、対向車線に迷い込んだ、3頭めの牛だった。

フロントガラスは割れ、サイドミラーは折れて消え、車の鼻先は大破してぼこぼこになっていた。それは無計画さの生んだ焦りの代償だった。

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ヒンドゥー教徒にはとても申し訳ないことをした。そう思って今まで書けなかった。けど、もうインド文化圏を脱出したし、時効でしょう。それは2年前の、5月のことでした。

教訓。無計画すぎると、牛を轢く。
げに旅人への道は遠いものであります。反省反省。

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旅人の資格あと8つ。

※ナミビアのはなし
Day2(エトーシャ)(2013.5.29)
Day3(ヘンタイベイ)(2013.5.29)
Day7(二日酔い)(2013.5.29)