月別アーカイブ: 2019年4月

5-リトアニア(雨、ビール、花粉)/Lithuania

今のところ、ギアナ三国、バルト三国、コーカサス三国という、三国シリーズを三パターン経験してみたのだが、三ヶ国をいっしょくたにしてはいけないなと思ったのがコーカサス三国(中央アジア)、三ヶ国のグラデーションを肌に感じながら南下したのがバルト三国(東欧)、旅のハードコアさゆえにあまりまともなことを考えられなかったのがギアナ三国(南米)だった。

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それでも世界観というか、三国ずつ、そのまわりの世界からは独立した世界というものがあって、またまわりを強国(または強い世界ないし文化圏)に囲まれているという意味でも、共通するところがある。ブラジルの隅にあるギアナ三国はブラジルと大西洋、またはアフリカと欧州なり旧宗主国との間にあり、バルト三国は北欧とロシア、ハンザ(ドイツ)~ポーランドの大文化圏の狭間にまるで小さな岩のくぼみに水がたまるように、文化がたまり、コーカサスはロシア、トルコ、イランの間にこれもまた岸壁をつたう水脈のように、流れて果ては中央アジアの草原地帯に向かうシルクロードを形成している。

それを規模上、大世界の中の守られた小世界、とあらわしてしまうと、みっつの国・地域が矮小ながら身体を寄せ合うように縮こまって生きているというようなイメージになるが、決してそうではなく、規模の上で小さいがゆえにここいらには凝縮された濃ゆい文化のにおいが溜まっているのだ。

もしかすると千年とか前の統一されていない日本も、中華圏と太平洋に挟まれたくぼみとしての、小世界といってよかったのかもしれない。修正された大文化圏の影響と、オリジナリティと、発散と集約と。

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バルト三国の最後リトアニアの夜についての記憶をひとひら。
ロシアを出て、北欧の色濃い北のエストニアから降りてきた私は、リトアニアに来て夜がすこしあたたまったこと、しかしすこし早くなったこと、ポーランドに近くなったからか教会がロシア正教の玉ねぎ型でなくキリスト教の三角×十字になったことなんかに思いをはせつつ、賑わう小道をてくてく歩いていた。
こじんまりとして、黄色いテーブルクロスのかかったちいさな店で、じゃがいもの料理をたべ、ビールを飲み、少し寒くなってきたところで店を移動すると、唐突に雨が降り出した。
雨脚は強まり、ざんざんという音が店の軒をたたき、私はぼんやりと外を眺めながら、ビールの飲み比べを頼んだ。もう9時だというのにあたりはまだ夕方の明るさだった。

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雨の中で、年老いた女が踊っていた。くるくると回る彼女のスカートの裾に、はねた泥がきらきらと輝いて、彼女をこの世のものとしてつなぎとめているようで、なぜか私が、しずかに安心していた。

ビールの飲み比べは5種のちいさなグラスを並べてあり、私はうすい色から濃い色という順番でビールを吸い込みながら、何人かにはがきを書いた。日本に、シンガポールに、フランスに。

小さな花が、あちらですこし、こちらですこし、ほんの少しずつだけひらいていくように、私はバルト三国を下りながら少しずつだけ、ひらいた花弁のすきまからこの世界を覗き見て、でもまだぬくぬくと花の中に身を丸め、ただ、そこから注がれるビールはちんと冷えて美しかった。世界は浅い金色の中に浮かび上がっているようで、私はその浮かび上がった世界の縁に乗っかって、長く明るい夜をころころと転がりながら、街じゅうに落ちている花粉を身体のあちこちにくっつけていた。

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4-デンマーク(どんぶり?)/Denmark

私はいままで訪れた場所で出来ている。その集合体を記憶というのはあまりにもったいない気がして、コペンハーゲンの昼下がりを歩きながら、皮膚のひだに入り込んだままのほかの町のにおいをそのままにしていた。なにも動かないように。なにも感じさせないように。すべてすきとおってからだを素通りしていくように。

最近よく思うのが、言語化されていないモヤモヤふかふかとしたものを、それは感情だったり会話がはだにまとっている空気だったり自分の外縁そのものだったりするのだけど、それをことばのかたちにしてしまうともう二度と、元のモヤモヤふかふかには戻れない。だから言語化は、初雪に刻印する足あとのように、雪の平面性やそのしずかな純正さを破壊するものでもあり、あたたかい夢が冬の朝にサックリ切られるような。そんな感じにおもえた。

「それ」を言葉のかたちにしてしまうのはとてももったいない、それはいましかここにないもの、もしかしたらあの朝のまどろみのようにこのまま保持していられるかもしれないもの、流れて消えてしまうならそれでもいいもの、というような気持ちが自分の内側ですごく流行っていた。

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