旅の反省文(その9)

旅人の資格9.自由

自由ってなんだろう?
誰にも縛られず、どこにでも行けて、何にでもなれること?

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中米を南下していた。

チキンバスというおんぼろのデコバスを乗り継いで、ニカラグアからコスタリカへ国境を越える。クラウド・フォレスト(雲の森)というすてきな名前の森に行きたい。
雲の森にたどり着くためには、さらにバスを2本乗り継がないといけないというとで、
国境から出るバスに乗って、途中下車するのは2本の国道が交わる交差点。
交差点からはさらにもう1本、ローカルバスを拾って、森まで上る。
バスは1日に1本だか2本だか、よくわからないらしいけど、たぶん来るでしょう。大丈夫でしょう。

 

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朝の6時から移動していたし、国境越えで消耗していたし、暑くて疲れていた。
座席の背に身体まで溶け込む、じっとりとしたねむり。
運転手にたたき起こされたときにはもう昼の2時を回っていた。ここはデ・ザン・なんとかという場所だ、と運転手は言う。
クラウド・フォレストはモンテベルデに行け。アキ、アキ(ここ、ここ)。ブース、ブース(バス来る)。トレー、トレー(3時)。

運転手を信じて、バックパックを背に降り立った場所には何もない。
ていうか実は交差点じゃあない。ちょっとしたT字路のIの部分がうねうねと続いているのがなんとなく見えるだけだ。大丈夫なのかしらね。
とりあえずT字路を渡ってみると、ちいさなベンチがあった。たしかに、ベンチの上に屋根みたいなものがあって、「モンテベルデ行き、AM10時とPM3時」と書いてある。それだけ。手書き。ほんとーに来るのかね?
まあまだ3時になってない。信じてみよう。

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あたりを見まわしてみる。本当に、まわりには何もない。
国道と、ガソリンスタンド。青い空。白い雲。「国道145号線、モンテベルデまで38㎞」と書かれた標識。
もしもバスが来なかったら、私はここで野宿をするのだろうか?
テントはアフリカの大地に捨ててきてしまったよ。マットもないし、寝袋もない。ハンモックもない。
本はあるけど、地図はない。たばこはあるけど、食料はない。ナイフもランプもない。

国道145号線の標識には、「ラス・フンタスまで6㎞」とも書いてあった。6㎞だったら歩けないことはないかな。バックパックあるけど。10㎏あるけど。あと、暑いけど。
っていうより、ラス・フンタスは果たして町なのだろうかね?また、ガソリンスタンドとベンチのバス停だけのT字路だったりするんじゃないか。
不思議と不安はなかった。

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3時を過ぎた。バスは来なかった。
ラス・フンタス、と私は口の中で唱えた。うーん。何もなさそうだよなあ、やっぱり。
ところでここはどこだろう?デ・ザン・なんとか?ってどこだよなあ。
道路の向こう側に木が生えている。草の緑は若い。なんかまぶしい。あと、ガソリンスタンドがある、のは、さっきも見たなあ。
車が通らないなあ。ヒッチハイク、やだなあ。でも都合よくヒッチハイクで山の上まで行く車が見つかるなんて、ないよなあ。 私、どこへ行こうかなあ。まあ、何時間でも、待てばいいのか。
何かが私をどこかに連れていくでしょう。

私はバックパックを投げ出して道端に座り、たばこを取り出して火をつけた。
ほそく煙を吐き出すと、白い煙は夏の風の間を縫ってよんよんと立ち上り、雲と雲の間にぽっかりひらいた青空を曇らせた。ひとり、だなあ。
自由、だなあ。

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