旅の反省文(その8)

旅人の資格.楽しむこと

好きになるのに、理由なんかない。

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夜。

ライブハウスの、壁の木目に煙が滲みて、時間のにおいがする。
静寂を切り裂くラッパは、それは暗闇に差し込む白いひかり。
天井を抜けて、夜空から星が、雨のように降る。ぽろぽろ。さらさら。それはピアノの鍵盤におさまる。
サルサを踊るキューバ人の、胸元のにおい。「サルサを踊るときだけは、男にリードを許すものなのだよ」
ステップを踏む足元に、ドラムのリズムがワンツースリー。チクチク。パパパパ。ぺっぺ、っぺっぺ。
汗をかいたモヒートの、ミントがつん、つんと清い。

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昼。

「今日のラインアップ」と、看板に連なる無秩序なバンドの名前。
道路から柵をつかんで、頭を差し入れて中を覗くと、隣の男も同じように頭を差し込んでいた。こうやって音を聴くんだよ。ふはははは。日射しから逃げる。
演奏中、客席にラッパが振りかざされる。とつぜん飛び入り参加する、どこから来たかもわからない観光客。見守る客席のあたたかいまなざし。
くるくる回るおばさん。ここでは時間は止まることを許される。
呪文はひと息。サンチアゴ・デ・クーバ。

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外。

ギター弾きの老人は、広場にハーモニカをひびかせて、足取り軽く街を歩く。テッテケてけてけ。
土埃、土埃。そのあいまにかすかに潮を含んだ風。
アスファルトを焼く日射し。蝶々はしがみつく。
奥さんどこまで。ちょっとそこまで。あんた私の左手にあるものが見えないの。そこにはピンクのクリームを、たっぷりのせた誕生日ケーキ。
角を曲がると映画館。古びた看板。ちいさなときめき。ただ運ぶだけ。

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裸のこどもは追いかける。手を繋ぐ親子。ピンクの壁。
通り沿いの商店はパッサパサのサンドイッチを売ってる。ハムがよいか、チョリソーがよいか。どちらでもよろしい。
扉のかげで、女が男とキスをする。 ラ・ムヘーレ、ラ・フローレ、エル・ロマンティシモ。
果物売りは地べたに寝そべり、 しかしおやじが4人集まると、サイコロを振る。
ここは彼らの、サンチアゴ・デ・クーバ。

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白ラム。濃いラム。とても濃いラム。胸がきゅうとなって、まだ日は高い。
フェリ・クンプレアーニョ、と老人がベースを始める。ボンボン。っほっほ。
フェリ・クンプレアーニョ。誕生日おめでとう。ミ・アミーゴ。
坂の向こうには海。
カンターレ、カンターレ。どこへ行こうとも。

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※キューバの話
トローバ、恋の落ち方(2014.3.22)
午後の海とブエナビスタ・ソシアルクラブ(2014.3.12)
音楽と酒(2014.3.28)

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