再会するのかしないのか

(アビジャン)

「どこ、向かってるの」と私は隣のドライバー氏に聞く。

「前の車を追いかけろ、っていうから」

「ってことは、前の車に私の友達が乗ってるということなの」

「そうみたいだよ」

「どこ行くんだろう」

「はて・・・」

目の前を青い小さな車が走る。ウインカーも鳴らさず、すいすいと渋滞を行き過ぎている。それを私の乗る車がやいのやいの言いながら追いかける。雑なカーチェイスに、状況を飲み込めていないドライバー氏もなんとなく面白そうに、にこにこハンドルを切る。週末のアビジャンの町はさっと吹く埃の中で、しずかに乾季の終わりを告げている。

 

3年半前に、この町に一度来ていた。そのときには町はずれの友達の実家に泊まっていた。

ガーナからのバスに乗り合わせたガーナ留学帰りのその友人は、西アフリカ旅行で心身を完全に疲弊していた私に何やかんやと世話を焼き、私たちはアビジャンを出た後もなんとなく連絡を取り合う仲になった。お別れのときにプレゼントされた赤い腕輪も、なんとなく大事にとっていた。

その友人に3年半ぶりに会えるということで、その週末はスーツケースから赤い腕輪を取り出した。しかし約束は今日のどこかで会おうというざっくりしたもので、アフリカタイムでも会えるかどうかあやしいものだった。実際、午後になってもふたりの居場所は町の上をあちこちバラバラに動いて、なかなかかみ合わなう。

午後の4時をまわってしびれを切らした彼女はとつぜん奇策を講じ、弟を遣わした(弟氏とも以前彼女の実家にて、会ったことがあった)。弟氏は私の車に乗り込み、電話を私に渡す。電話の向こう、強圧的な口調で友人が「弟がドライバー氏に場所とかいろいろ伝えるから、言われるままに来て」と言う。

そういう流れで始まった、言われるままの簡単なカーチェイス。まだ再会できると決まったわけでもなく、前の車に彼女が乗っているという保証もなく、大丈夫かという状況でありながら、私はつい、くすりと笑う。

そもそも、と私は思う。『車はどこへ向かう』

アビジャンの町の私が知らない界隈を、青い車はびゅんと砂埃を巻き上げながら走りつづけている。そのまわりに人垣が割れるようにあって、赤と黄色のアフリカ布で腰をつつんだ果物売りは、あたまに大きなたらいを載せて歩いている。白い空に、土曜の午後のゆるやかな停滞が、浮かんでは消え、埃を降らせている。通り過ぎる風は、3年半ぶりの友人(の見込み)という、人間のかたちになって、私をこの町にふたたび迎え入れている。

(つづく)