旅の反省文(その6)

旅人の資格6.タフであること

タフな旅人になりたいと思っていた。 どんなに汚い場所でも気にせず入っていき、50時間移動などものともせず、雨にも負けず、風にも負けず。

求道的な、修行のようなハードな、かっこいいと思っていた。 30前後に享楽的な遊びを長いこと続けているという後ろめたさも手伝って、自分は結局世間知らずなのであるというコンプレックスも手伝って。

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というだけじゃないけれど、西アフリカへやってきた。見どころなし、移動過酷、気候過酷、マラリア猛威、情勢悪い、フランス語、と6拍子そろった旅人泣かせの土地である。もうアフリカをこじらせていたとしか言いようがない。最初は軽い気持ちでした、と証言させてほしい。

セネガルからマリへ行くバスは予定の20時間を大幅にオーバーして40時間かかった。その半分は助手席代わりの黄色いポリタンクの上。
マリの国内移動では途中でバスが故障して夜中の荒野の上に放り出され、マラリア薬の副作用と車酔いとその他もろもろが相まって私は荒野の上におろろと吐き散らかした。
次の国ブルキナファソに入るのも至難のわざで、500㎞を72時間かけて移動した次の朝には、Tシャツの背中は土埃でまっ茶色。

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ブルキナファソからベナンまでのバスもひどかった。夜行バスはキャンセルだと言ってなくなり、翌朝便も24時間。
当初の予定の倍かけてほうほうのていでたどり着いた早朝のコトヌーで、私はトイレに向かって吐き続けた。もう、薬とか車酔いとかじゃなくて、ひどい疲労のせいだった。 いったい、私は何をやっているのか。惨めじゃないか。こんなところで何を吐いているのか。ああ、国境で食べたリソースだ。リソースとはソースをぶっかけたごはんだ。西アフリカの常食だ。もういやだ・・・

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途中まではアドレナリンでカバーしていた旅の過酷さも、国を越えるごとにメンタルを侵食してきた。早くやめたい、早く終わらせたい、とそれだけを考える旅の、いったい何がおもしろいのか。
いや、おもしろいと思うときもたまにはあるのだ。
・セネガルで魚ごはんを食べたり(絶品)、
・マリで泥でできたモスクをみたり(心がしずまる思い)、
・ブルキナファソで友人を訪ねたり(久しぶり)、服を仕立ててもらったり(綺麗)、
・トーゴでブードゥー教の市場に行ったり(不気味)。
週1くらいの頻度で、ウンイイネ、って思うくらいのことはある。でも、それよりももう、苦行感がハンパなかった。1日3回の頻度で、もう死ぬ、私今日死ぬ、と思っていた。

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ガーナからコートジボワールに抜ける14時間バスで、帰省するコートジ人の女の子(というか私と同世代の女性)と会った。ルイーズというのが名前だ。
バスの中では疲労でぐったり眠りこけ、国境ではのんびりとお茶を飲んでいて置いていかれそうになる私を、なんやかんやと世話してくれたのが彼女だった
アフリカはおばちゃんたちが優しかったけど、ついに同世代にまで世話されるようになった私。タフな旅人を気取っている場合じゃない。

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到着したコートジの首都アビジャンでは、目当ての地域まで一緒について来てもらった。もう夜も遅かった。
すると安宿と思っていた宿は高く、他のところは入れない。右往左往。
そんな私を
私をあわれみながらルイーズはぴしゃりと言った。言わざるをえなかったのだろう。
「うちに来なさい。もう遅いから。女が夜にうろうろするんじゃないよ」
私もこう答えざるをえなかった。 「はい。お世話になります」

ちいさな戸口が開くなり子供たちがルイーズに飛びつき、ついでにちょっと訝しがりながら私の方にも突進してきた。「おかえりなさい!おかえりなさい!」
それは甥っ子たち姪っ子たちだった。
ルイーズの両親と兄弟も一緒に出てきて、私のバックパックを取り上げた。
「いらっしゃい。あら、こんなに汗まみれで。はやくふろにおはいり」
そうして私はまるっと服を剥がれて、風呂場に放り込まれた。タンクの中にはつめたい水がしんしんと溜まっていて、そこから立ち上る空気の清涼なことといったらなかった。

風呂を上がるとご飯の用意あった。私は胸がいっぱいになって、ほとんど泣きながらご飯を食べた。

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タフな旅も悪くないなんて言えるのは、その後にある安心があってこそだ。タフな旅を支えてくれる名も知らぬ誰かのやさしさがあってこそだ。
自分は修行だなんて、ひとりでなんでもできるだなんて、かっこつけてはいけない。
西に疲れた母あれば行ってその稲の束を背負ってやっているのは、名も知らぬ誰かだ。タフぶっている旅人は、その稲の束を背負ってもらっている方なのであります。
旅は道連れ世は情け。

ああ旅人への道は遠いけど、遠くていい。弱っていた私を甘えさせてくれてありがとうございました。生きよう。

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旅人の資格、あと6つ。

※コートジボワールの話
生かされる(2013.9.28)
アビジャン1(2013.9.28)
アブジャン2(2013.9.28)