Portugal004-Lisbon

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FADO / もう圧倒的なもの

酔っぱらっていたのも多分にあるけれど、こんなにも涙がさらさらと川のように粘性なく流れてくることに私は驚いた。

さっきまでの女の子はぎっしりと重い声で必死に歌っていて声量もすごかったし何よりパフォーマンス上手で、ポルトガル演歌らしい寂しげラブソングを歌い散らしながら客席を盛り上げていたけれど、いま目の前でファドを歌っているおばさんはあの子とは何もかもが違った。肩の力が抜けていて、ざらついて聞こえるはずのハスキーな声が水の流れのように清涼で透明で、何も纏っていなかったし何も飾っていなかった。でも彼女が流すその川は深くて底が見えなくて、飛行石のような透き通った青の悲しさを沈めているようだった。そしてとてつもなくやさしかった。

伝えたいもののあるひとの歌だ、と思った。逃げも隠れもしないひとの歌だ、と思った。
彼女の声があまりに直截的に響くので、私もまた逃げ隠れする場所を失って、気づいたときには泣いていた。彼女が歌い続ける間じゅうずっと、泣いていた。

2014.12.26