旅人の資格1.おなじものを食いおなじものを飲むこと
郷に入っては郷に従え。旅人というものは、そりゃあ、土地のものを食い、土地の酒を飲まなければいけない。そうやって行く先々のもので身体と心を作っていくというのは、旅人の変身願望を満たしてくれる、とてもわくわくすることである。
だから私はインジェラだって平気だ。そう、ぼろ雑巾の上にゲロと形容される、悪名高いエチオピアの主食だって。
旅人の資格1.おなじものを食いおなじものを飲むこと
郷に入っては郷に従え。旅人というものは、そりゃあ、土地のものを食い、土地の酒を飲まなければいけない。そうやって行く先々のもので身体と心を作っていくというのは、旅人の変身願望を満たしてくれる、とてもわくわくすることである。
だから私はインジェラだって平気だ。そう、ぼろ雑巾の上にゲロと形容される、悪名高いエチオピアの主食だって。
旅にはたくさんの興奮や感動やトキメキが宿っている。それはそのとおり。
そのとおりなんだけど、そうはいっても実際の日常はいいことばかりじゃなくって、泣きたくなったり(泣いたり)、キレたくなったり(キレまくったり)、自己嫌悪に陥ったり不安になったり生きててすみませんの連続である。でもまあ人生だっておんなじで、反省だらけ懺悔だらけの恥の多いやつをそれでも32年も生き延びてきちゃったわけだから、しょうがないよね。と思って心をしずめる。
旅も終えて1年が経つと、記憶が平らになって、「楽しかったなあ」も「大変だったなあ」も「もう死ぬ、私今日死ぬ」も、「うん、生きたなあ」のひとフレーズに収斂してくる。
旅が順調に行っていた場所も、超大変だった場所も、ひとしく、旅らしく、いい思い出。
そう、虫にやられて苦しかった東アフリカの旅も、吐きまくって死ぬかと思った西アフリカの旅も、早すぎて見えなかった中米の旅も、孤独で不安だったギアナ3国の旅も、今やいい思い出です。やっといい思い出になりました。やっと。
旅をした2年間のことを、あれは一体なんだったのだろうとずっと考えていて、あれはやっぱり憧れだったんだろうなと、そう思うに至ったのが、やっと最近。
結核です。といっても結核を発症したわけではなく、身体のどこかに結核の菌をもらってきた(ダッカで)という話らしいです。結核菌は「活動性がない」らしく、休眠状態みたいなもので、えーと細かいことがよくわからないのだけど、とにかく感染の経路にも出ていないとのこと。だからご心配なく。私としゃべっても大丈夫。キスしても大丈夫。
もしかしたらこのまま一生発症しないかもしれないし、明日発症するかもしれない。発症したら隔離入院です。期間は半年から一年。ハンセン病の隔離入院が廃止された今、刑務所以外の強制隔離施設は結核の病院だけらしいです。たまたま3月に友人からもらった本が、ハンセン病患者から人間の生きがいを描く本でした。他人事とは思えん。
入院生活はけっこう合宿みたいなんだぜ、と10年前に結核を患った友人が言ってました。ほんとかよ。合宿ってなんだよ。半年って合宿にしちゃ長いよ。たぶん。長いよ。
結核菌を取り除く薬を飲み始めました。発症しないうちに治せるなら治すに越したことはないというわけで。これもまた半年。普通の生活を送りながら治せるならそんなに長くはない。たぶん。普通の生活なら。
「副反応としては、ビタミンBが不足するのと(これは別の薬でカバーできます)、あと肝臓にも多少負担がかかります」
「肝臓・・・。私お酒飲むんですけど大丈夫ですかね」
「飲んでも大丈夫ですよ。焼酎10杯とかいう飲み方をしなければ」
「焼酎10杯・・・」
「来月また来院してくださいね。肝臓の数値をみますからね」