France003-Hendaye

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Zizzing / ピレネーを越える夢

朝のTGVはしんと静まり返っている。
無理もない。パリの朝は遅い。7時28分パリ発エンダイエ行きの汽車は、窓枠の内側をまだ暗く明けの闇に染めたまま、スペイン国境に向かって延々と南下する5時間の旅を始めたばかりだ。
むっとする暖房のにおいに混ざって、線路の上をひそひそと滑る汽車の音。窓の外の寒さと引き換えに、2等列車16号車の中に流れているのは寝息の連なりだ。
みんなねむっている。あるものは窓枠に、あるものは彼氏の肩に、あるものは友人の鞄に、あるものは椅子の背にもたれ、思い思いの夢を、思い思いの寝息の中に信じている。寝息は意識を煙にまく。時間が、止まってしまったのではないかと私もまた身体の半分を夢の中にもたせ掛けながら思う。

目を覚ますと窓枠に雨粒が流れ、その向こうに白く泡立つ海がみえた。眠っているうちにピレネー山脈を越えていたようだ。
無理もない。ゆうべは明け方まで飲んでほとんど寝ていない。5時間分重たくなったまぶたをもったりと開いて終点のエンダイエで降りて、スペイン側の電車に乗り換える。切符を買うとすでに電車が待っていた。
じゃあ、と友人が言う。Vamos?

2014.12.20