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So this is Christmas (Eve) / 猫の館のクリスマス

Trenhotelという名の寝台列車はポンバルという名も知らぬ村に朝の5時に着いて、無人の電車駅まで迎えに来てくれたB&Bのおばさんはオランダ生まれということだった。
その日はクリスマスイブで、客は私のほかにひとりもなかった。湯たんぽを入れてつんと冬のにおいのするベッドで、私は朝までたっぷり寝た。朝ごはんのノックで起こされて、その日はずっと裏庭で本を読んでいた。ポルトガル人作家の書いたとてもつまらない自伝だった。
日が暮れると裏庭は寒くなって、じんじんと痛む指先に息をひとつ吹きかけたところで、おばさんがやってきた。上に暖炉があるから、おいでなさいよ。今日はうちの旦那がクリスマスのごはんを作ってるのだけど、あなた、タコ、好きよね。日本人だものね。

はい、タコ、大好きです。そう言って暖炉のあるリビングに上がると猫がたくさんいた。キッチンに立つ旦那を横目におばさんはブランデーを出してくれた。私と同世代の息子が帰省していた。ご飯まで時間があったので、付け足すようにオリーブとソーセージも出てきた。ちょっと恐縮する私に、今日は特別な日だからねと彼女はほほえんだ。私はほとんど反射的にありがとう、と言った。そして、旅した距離を切り売りして歩いているような、大道芸人的な旅人の性を恥じた。や、こんなことで感動したりしないんだからね。
ご飯の後に晩酌していると、ふと女将が目くばせした。旦那は何気なく私に小さな包みを差し出した。今日は特別な日だから、と彼は私に包みを解かせる。それはポンバルの場所に穴の開いたポルトガル型のキーホルダーと、ちいさな2本の鉛筆だった。こんなことで泣いたりしないんだからね、と私は唇をかんだ。気道にありがとうが詰まったのだ。

2014.12.24