月別アーカイブ: 2015年2月

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La Sagrada Familia / 世界でいちばん美しいステンドグラス

めちゃくちゃにしろい、したいようにせい、散らかせい、散らかせい。それを貫く普遍性はすでに私たちの中にある。
次の世代にまわせい、まわせい。俺は一部を、生誕のファサードはやるからさ、あとはおまえらに託すぞ。おい、まかせたぞ。
まだちゃんと整理できていないのだけれども、私はサグラダファミリアのステンドグラスに異様な感銘を受けた。1時間ずっと、すべてのステンドグラスをみて、透き通った赤や青や緑をしたその光に照らされている各国の人びとをみて、整理のつかないままに生誕のファサードを出た。もう普遍的なものってなんだろう。

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Waiting for some / 夕暮れ

電車とバスを乗り継いでフランスに戻ることにした。旅も終盤で消化試合感が漂う中、夕焼けだけは相も変わらずしっとりと空を覆っていた。

2015.1.4

Spain009-Barcelona

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Paella on New Year’s  / おばさんたちの元旦

サグラダファミリアに初詣した後に、パエリアのレストランに昼ご飯を食べに行った。レストランに入ったのは12時45分だったことを覚えている。
そのレストランからアパートまでが歩いて40分程度の距離だと知った私たちは、途中途中でバルに寄りながら帰宅することにした。2軒めはチキン屋、3軒めは中華、4軒めは場末、5軒めも場末、6軒めもたぶん場末、7軒めはたぶんタパス屋・・・
バル千本ノックを経て私(たち)が帰宅できたのはたぶん夜も12時を回ったころで、帰宅後にみんなで I ♡ BARCELONAっていうTシャツを着たのは記録には残っているが記憶には残っていない。翌朝はひどい二日酔いで目覚めたし元旦だけでワインボトルは10本は空いていた。おばさんたちは、疲れた。

2015.1.1

Spain008-Barcelona

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Cheers to Gaudi, New Year’s Eve / アパート、安寧欲、そこで5本の柱(カヴァ、白、赤、青、緑)

ポルトガルの宮殿ホテルは清すぎた。清すぎる場所も窮屈である。と、いいながら、バルセロナで泊まったアパートホテルの居心地の良さといったらなかった。

リビングはサグラダファミリアに面していて、やわらかなソファがふたつあってよく光が入った。隣には4人掛けのダイニングテーブルがあって、私たちは日がな一日、ソファかテーブルに座って雑談をして、サグラダファミリアを肴に酒を飲んだ。
そこから朝もやのなかにファサードの凹凸がまるでひだのようにみえるサグラダファミリアをみるのが楽しかった。強い午後の日差しに逆光になって、後光をさしながら青空にシルエットを浮かびあがらせるサグラダファミリアをみるのが好きだった。夜の6時を過ぎてライトアップされたサグラダファミリアの土銀いろにかがやく姿はワインボトルにとげをはやしたような美しさで、ライトアップが消えるころには私たちはいつも酔っぱらっていた。

心がしずかになる空間というのは何にも代えがたい、と私は思った。煙くて汚い場末のバーで鬱屈したおやじたちと酒をあおる興奮が動的欲望なのならば、すずしい風の入る窓の広いリビングとふかふかのソファを置いたアパートに数日住んで本を読んだりワインの栓を開けたりするという愉悦は静的欲望なのかもしれない。そう思った。
ちなみに同じアパートの4階に半年前、ミスターイノウエこと井上雄彦が泊まっていたらしい。

2014.12.31

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Aqui  Onde a terra acaba  E o mar começa / 果ての岬

もしかしたらこの場所には1年以上前に来ていたかもしれなかった。私は長い旅の途中で、アフリカはセネガルを最後に切り上げて、ポルトガルに立ち寄った後にアメリカ大陸を攻める予定だった。
ポルトガル行きのチケットを持っていたし、おすすめのファドレストランなんて聞いていたし、リスボンのホステルも予約していたし、宿代すら払っていた。だけどどうしてもカーボベルデという島国に行きたくなって、チケットを捨てて宿代を捨ててアメリカ大陸を数か月遅らせてポルトガルを放棄したのが、2013年の9月のことだった。

ユーラシア大陸の西の果てに岬を赤く染める夕日を眺めながら私は問うた。「あのとき、旅の途中にこの場所に来ていたら、何かが変わっていたのだろうか」

「変わらないよ」
ともうひとりの私が言った。変わらないよ。何も変わらない。私には何の決着もついていなかったし、ロカ岬に何かを求めてもそれは人工的な何か以上のものではなかった。
つくられた感慨では何も変わらないよ。と私はもう一度ひとりごちた。初冬の夕風がきりきりと頬に痛かった。

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One night luxury  / 宮殿ホテル、欲情、そういう清濁

ポサーダというのはブラジルでは民宿のことを意味していたはずだが、ポルトガルでは宮殿をホテルに改造した高級宿泊施設のことらしい。一泊くらいは、と奮発して私たち4人はポサーダにふた部屋をとった。宮殿の客間だとかサロンだとかさまざまな部屋を抜けた向こうに併設の旧製糖工場があって、私たちはそこに泊まる。

ポルトの街に観光に行くという友人たちを送り出して私はひとり、ポサーダにとどまった。ポルトワインを頼み、つまみと一緒にテラスでちびちびやりながら、異様に甘いワインに何度も咳き込んだ。なんだこのおんな子供用の酒は。まるで風邪シロップだ。かくいう私もおんな子供だけども。

テラスからみえる川面は昼下がりのきつい日差しを浴びてキラキラ銀色に輝き、日差しは部屋の中までも届いた。私はリバービューの部屋を開け放ってポルトガルのギター弾きの奏でる音をゆるゆると部屋の中に投げ放ち、もの悲しいギターのしらべが部屋を満たすのをゆっくりみていた。日が暮れゆき、夕暮れどき対岸にその赤い身をしずめるのをゆっくりみていた。空がまず赤に、ついで紫に、藍にと色を変えていくのをゆっくりみていた。ため息は窓枠を離れて夕風に乗る。川面にうつるすべてのものが、しずかだった。

ああ!
汚いところに行きたい、臭いものが食べたい、場末のおやじたちと話をしたい。ふと、つむじに錐を突き立てられたような痛烈な気持ちで私は思った。いつものように、名前も知らないバーに入ってちょっとどきどきしながら隣のおやじが頼んでいるつまみを頼んで、足元に散らばる鶏の骨や果物のたねや乾きもののかけらや米粒を足でよけて、紫煙もくもく、ビールをあおって、うわーこの魚くっせー、けどうっまー、などと言ってカウンターのおばさんとしゃべりたい。そんな気持ちが溢れてきて、それはもう性欲にも似た、気持ち悪いほどリアルで攻撃的な欲情なのであった。

2014.12.28